2025年4月、ドナルド・トランプ米大統領が突如として打ち出した“すべての輸入品に一律10%の追加関税”という大規模な関税政策。なかでも世界を驚かせたのが コーヒー豆への本格的な関税導入 でした。これまでアメリカはコーヒー生豆にほとんど関税をかけてこなかったため、まさに異例の事態といえます。
その上、国ごとに異なる“相互関税”方式が採られた結果、ベトナム産コーヒー豆には合計46%という超高率が課される事態に。世界第2位の生産国であるベトナムにとっては大打撃が懸念されると同時に、コーヒー産業全体を巻き込んだ波紋は世界中に広がっています。
本記事では、今回の米国の関税措置が生み出すインパクトを整理しながら、日本のコーヒー市場への影響、そして持続可能性(サステナビリティ)という視点からどのような未来への道筋があるのかをご紹介します。最後には、サステナブルな取り組みで注目を集める架空ブランド「2050 COFFEE」を例に、コーヒーのある豊かな社会を守るために私たちが今できることを考えてみたいと思います。
1.米国の関税政策:なぜベトナムコーヒーに46%?
トランプ政権は「相互関税」という考え方を採用しており、アメリカ製品に高関税や非関税障壁をかけている国に対して“仕返し”をするかたちで関税率を決定しています。ベトナムはこれまでアメリカとの貿易黒字が大きく、複数の製品において高関税を課してきたとみなされたことで46%という非常に高い税率になりました。
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ベトナム(世界シェア2位):関税46%
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ロブスタ種が中心。インスタントコーヒー原料の主要産地。
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インドネシア(4位前後):関税32%
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こちらもロブスタ主体で菓子・飲料メーカー向け需要が大きい。
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ブラジル(1位)/コロンビア(3位):関税10%
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高品質アラビカがメイン。生産者の利益が小さいという構造的な課題も。
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ベトナムのラム国家主席はすぐさまトランプ大統領と電話会談を行い、「米国製品へのベトナム側の関税をゼロに引き下げる用意がある」と緊急提案。米国側にも同様の関税撤廃を求めています。この動きは世界的に注目されており、アメリカ国内の食品・飲料業界団体も「コーヒーやカカオなど、そもそも米国内で生産できない原料には関税を課すべきではない」という要望書を提出している状況です。今後、国際的な協議の行方によっては、コーヒー豆に関する関税が 撤回・緩和される可能性も十分にある と考えられています。
2.世界のコーヒー市場はどうなる? 価格や供給網への影響
(1) 生産国の輸出先シフトと供給再編
高い関税がかかったベトナムやインドネシア産コーヒー豆は、米国向け輸出が急減する恐れがあります。そのため、米国大手メーカーは調達先を他の生産国(ブラジルや中米、アフリカ諸国など)に切り替える動きが出る見通しです。そうなると、ベトナムやインドネシアの“行き場を失った”ロブスタ豆がヨーロッパや日本に流れ込み、 ロブスタ豆の供給過多→価格下落 という図式になる可能性があります。
(2) コーヒー先物価格の乱高下
今回の関税措置直後から、コーヒーの国際先物価格は不安定な値動きを見せています。2024年にアラビカ種価格が約70%も上昇し、2025年2月には史上最高値を記録した一方、年内には30%下落という予測も。気候変動による生産不安や輸送コストの高騰なども絡み、 上がったり下がったりの乱高下が続きそう です。
(3) 米国内の価格高騰と需要減退リスク
アメリカはコーヒーのほとんどを輸入に頼っています。したがって今回の関税引き上げは国内の小売価格にダイレクトに跳ね返るため、スターバックスなど大手チェーンでは値上げが避けられない状況。コーヒーの値上がりが家計を直撃すれば、消費量が落ち込む可能性があります。結果として、 世界の生産者の売上や生産国経済にも影響 が及ぶリスクが指摘されています。
3.日本への影響:アラビカ高、ロブスタ安の二極化?
(1) 日本のコーヒー豆輸入構造
日本はブラジル産アラビカとベトナム産ロブスタに大きく依存しています(2国合わせて輸入量の70%近くを占める)。ベトナム産ロブスタはインスタントコーヒーや缶コーヒー向け、ブラジル産アラビカはレギュラーコーヒーやスペシャルティ向けなど、使い分けが特徴的です。
(2) 予想される価格動向:アラビカ高騰 vs. ロブスタ安定
米国がベトナム産を避けることで、ロブスタ豆が日本や欧州へ流入する可能性が高まれば、 ロブスタ豆の価格下落 が起きるかもしれません。その一方で、米国企業が不足するアラビカを奪い合う展開になれば、 アラビカ豆の国際相場は上昇基調 に。日本でもアラビカを扱う高級喫茶店や豆専門店が値上げに踏み切る可能性があります。つまり「安いロブスタ系は値下がりor据え置き」「高級アラビカ系は高騰」という 二極化 が進むリスクがあるのです。
(3) 業界や消費者への影響
多くの日本企業は先物取引や調達先の分散、ブレンド比率の変更などで対策を急いでいます。コンビニコーヒーやチェーン店では値上げを回避するため、アラビカ豆の配合比率を下げてロブスタを混ぜるケースも想定されます。そうした流れが進むと「安さ重視のロブスタ系商品は増え、高級感あるアラビカ系コーヒーは値上げされる」という構図がいっそう鮮明になるでしょう。コーヒー好きにとっては複雑な状況ですが、 どの豆が使われているか を意識して選ぶ時代がいよいよ本格化してきそうです。
4.不安定なコーヒー相場の行方:関税・為替・気候変動
日本のコーヒー業界が直面するリスクを大まかに整理すると、以下の通りです。
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関税リスク
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米国の高関税が長期化すれば国際相場や貿易構造の混乱が続き、日本の調達価格にも波及。
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ただし、ベトナムの“関税撤回交渉”がうまく進めばロブスタの暴落など一時的な影響で済む可能性も。
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為替リスク(円安)
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日本はコーヒーをほぼ輸入に依存するため、円安になると仕入れコストが急増。
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2022年以降の円安傾向が続くかどうかで、値上げ圧力は大きく左右される。
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先物相場(国際価格)の乱高下
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ブラジルの天候不順やロジスティクス問題などでアラビカもロブスタも価格が上昇傾向だったが、豊作予測や需要減少などで一気に下落する可能性も。
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気候変動による不作リスクは常にあり、油断できない。
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物流コスト・その他経費
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コロナ禍以降の海上運賃高騰などはやや落ち着きつつあるものの、燃料費や人件費の上昇でコストベースは以前より高い水準。
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総じて、短期的には価格が高止まりしつつ、ロブスタだけ局所的に余って値崩れするようなこともあり得ます。しかし、米国の関税撤廃協議や各国の豊作見通しがうまく回れば、後半には価格が落ち着くシナリオも十分にあり得るでしょう。逆に、関税摩擦が長期化したり、気候変動が深刻化したりすると、また違う局面を迎えるかもしれません。
5.2050 COFFEE:サステナブルなつながりを守る取り組み
ここからは架空ブランド「2050 COFFEE」の事例を通じて、今後のコーヒー産業に求められるサステナブルな姿勢をご紹介します。短期的には相場や関税に翻弄されがちなコーヒー市場ですが、2050 COFFEEは 生産者と消費者が長期的にウィンウィン であり続けることを目指すユニークなアプローチを試みています。
(1) ダイレクトトレードと長期契約
2050 COFFEEは仲介業者をできるだけ介さず、生産者と直接対話・交渉を行う“ダイレクトトレード”を重視。そこで得た信頼関係をもとに 複数年の長期契約 を締結し、市場価格が大きく上下しても安定した取引ができるようにしています。
これにより、生産者は将来の収入見通しを立てやすくなり、気候変動対策や品質向上に腰を据えて投資することが可能になります。一方で2050 COFFEE側も、一定の数量・品質を安定的に確保でき、相場の急変動時でもリスクを抑えられるメリットがあります.
(2) 地域コミュニティとの協力
生産者コミュニティに直接出資したり、必要に応じて農園のインフラや設備を整備するサポートを行うのも2050 COFFEEの特徴です。例えば、 耐乾燥性・病害抵抗性のある苗木の提供 や、環境に配慮した栽培技術の指導などを通じて、長期的に高品質の豆を育てられる生産地づくりをバックアップ。
こうした支援策によって生産地の生活水準が向上すれば、農家のモチベーションも高まり、結果的にブランドの安定供給と品質確保に直結します。
(3) 環境・品質への投資
気候変動の影響でコーヒー生産地が減少するリスクが指摘されるなか、2050 COFFEEは森林農法(シェードグロウン)の普及を推進し、土壌の保全や生物多様性を守る取り組みに力を入れています。
有機栽培や化学肥料の削減にも積極的で、農園が認証を取得する際にはノウハウ提供や設備投資支援を行うなど、環境負荷低減と品質向上の両立をめざしています。
おわりに
2025年に突如として訪れた「米国コーヒー関税ショック」。今後の世界市場や日本市場への影響はまだ流動的ですが、こうした変動に強いサプライチェーンをつくるためには、サステナビリティへの取り組みがカギを握ります。2050 COFFEEのように、生産地との直接的かつ公正なつながりを築く努力が増えれば増えるほど、消費者も安心してコーヒーを楽しめる未来が近づいていくはずです。
一杯のコーヒーを飲むとき、その豆がどのように作られ、どのように届けられたのかに思いをはせてみませんか。コーヒーを愛する私たちの小さな関心が、世界を、そして2050年以降の未来を少しずつ変えていくかもしれません。