「2030年までに、さらに20万ヘクタールの農園をリジェネラティブに」
「2030年までに、コーヒーの半分をリジェネラティブ農法から」
「100%エシカルに調達」
最近、コーヒーの大企業からこうした言葉を本当によく目にします。サステナブル、リジェネラティブ、エシカル、カーボンニュートラル。
でも正直、「本当に?」と思ったことはありませんか。
先に結論を言えば、大企業の取り組みがすべて嘘というわけではありません。ただし、言葉と現場のあいだには、まだ大きな距離がある。そして、その距離は大企業だけの問題でもありません。私たちのような小さなコーヒーブランドにも、同じ問いが向けられています。
今回は、実際の事例と数字から、その中身を見ていきます。
そもそも「サステナブルコーヒー」とは?
「サステナブル(持続可能)」という言葉の定義は、1987年に国連の委員会(通称ブルントラント委員会)がまとめた報告書『Our Common Future』にさかのぼります。
将来の世代が自分たちのニーズを満たす力を損なわずに、今の世代のニーズを満たすこと。
この言葉は、もともと「環境を守れ」という先進国と、「まず豊かになるのが先だ」という途上国の対立をまとめるために生まれたものです。だから最初から、環境だけではなく、豊かさや公平さも含んでいます。
コーヒーに置き換えると、少なくとも3つの軸があります。
- 環境:森、土、水、気候
- 暮らし:農家が続けられるか、働く人の環境
- 透明性:どこで、誰が、どう作ったのかを示せるか
便利な言葉だからこそ、誰でも使えてしまう。ここが出発点です。
事例1|スターバックスの「100%エシカル調達」
表:スターバックスは2004年から、C.A.F.E. Practicesという独自の調達基準を運用しています。品質、お金の流れの透明性、社会的責任、環境の4つの軸で、第三者が農園を検証する仕組みです。コーヒーの99%がこの基準で検証済みだと説明しています。
裏:2024年、アメリカの消費者団体National Consumers League(NCL)が、「100%エシカル」という表示は誤解を招くとして提訴しました。グアテマラ、ケニア、ブラジルのサプライヤー農園での労働問題の報道が根拠です。スターバックス側は争う姿勢を示しており、2026年10月時点で判決は確認できていません。
もちろん、2004年の時点で自前の基準をつくったこと自体は、大手としては先駆的でした。ただし、基準があることと、すべての現場で守られていることは同じではありません。 40万を超える農家と取引する規模で、それを保証するのは簡単ではないのです。
事例2|ネスプレッソの紙カプセル撤退
表:ネスプレッソは2023年、8割以上が紙由来の素材でできた、家庭で堆肥にできるカプセルをヨーロッパ14か国で発売しました。2022年には、社会や環境に配慮した企業の認証であるB Corpも取得しています。
裏:B Corp取得の際には、30社以上のB Corp企業が公開書簡で抗議しました。使い捨てカプセルのビジネスモデルや、過去の供給網の問題が理由です。そして2026年9月、ネスプレッソは紙カプセルの販売終了を発表し、アルミカプセルに集中する方針を示しました。理由は、開封後4週間以内に使う必要があるなど、鮮度と使い勝手への消費者の声でした。
ネスプレッソは「サステナビリティからの後退ではない」と説明しています。実際、同社のライフサイクル分析では、エスプレッソ1杯あたりのCO2排出量は紙が79g、アルミが81gで、ほとんど差がありません。
この事例が示しているのは、理念とビジネスの現実のあいだにあるトレードオフです。そして、認証があると「もう大丈夫」に見えてしまう。それが逆に危ういところでもあります。
事例3|ネスレの「カーボンニュートラル」撤回
表:ネスレは、キットカットやペリエなどの一部ブランドを「カーボンニュートラル」にすると打ち出していました。
裏:2023年、ネスレはこの表示をやめました。背景にあったのは、カーボンクレジット(他の場所でのCO2削減分をお金で買う仕組み)に頼るやり方への批判です。現在は、自社のサプライチェーンの中で実際に排出を減らす方向に切り替えています。
カーボンニュートラルは、意外とお金で「買えて」しまいます。本当に減らしているのか、帳尻を合わせているのか。それは、飲む側からはほとんど見えません。
事例4|「リジェネラティブ」という新しい言葉
最近は「サステナブル」に代わって、「リジェネラティブ(環境を回復させる)」という言葉が増えています。「悪くしない」ではなく、土や生き物、水を「良くしていく」という考え方です。
- JDE Peet's(ピーツなどを持つ世界最大級のコーヒー企業)は2026年1月、2030年までにリジェネラティブ農法をさらに20万ヘクタールに広げ、2028年までに100%責任ある調達を目指す計画を発表しました。2024年時点の責任ある調達の割合は83.2%です
- ネスカフェは、2030年までにコーヒーの50%をリジェネラティブ農法から調達するという目標を掲げています
言葉としては、とても前向きです。ただし課題もあります。リジェネラティブには、まだ世界共通の定義も測り方もありません。何をもってリジェネラティブと呼ぶのか。切り替えのコストを、誰が払っているのか。そこが見えないと、この言葉も「サステナブル」と同じ道をたどるかもしれません。
じゃあ、大企業はダメなのか?
ここまで読むと、「やっぱり大企業は信用できない」と思うかもしれません。でも、そう単純な話でもありません。
大企業にしかできないことも、確かにあります。
- 衛星画像やAIを使って、何万もの農家の農地と森を地図にする
- 数十万人規模の農家に、研修や苗を届ける
- 毎年、大量に買い続けることで、農家に安定を与える
- 気候変動に強い品種の研究に、資金を出す
規模があるからこそできる「広さ」があるのです。
一方で、弱いところもあります。一人ひとりの農家との関係は薄くなりがちで、価格は基本的に市場の相場に連動します。「何%の農家が取り入れた」は示せても、「この農家の暮らしがどう変わったか」は語りにくい。そして何より、言葉が広告になりやすい。
小さなロースターは、本当にマシなのか
では、私たちのような小さなコーヒーブランドは、大企業より誠実なのでしょうか。
正直に言えば、そうとは限りません。
小さなロースターには、第三者の検証も、大規模なデータもないことがほとんどです。「生産者との関係を大事にしています」という言葉も、裏付けがなければ、大企業の「サステナブル」と同じくらい空っぽになり得ます。
大企業が得意なのが「広さ」なら、小さなロースターに求められるのは「深さ」です。
- 産地の現場を実際に見て、知っていること
- 品質に見合った、生産者が続けられる価格で買うこと
- 良いことだけでなく、難しさや課題もあわせて伝えること
役割は違っても、問われていることは同じです。
「サステナブル」を見分ける3つの問い
では、飲む側は何を見ればいいのでしょうか。私たちは、次の3つの問いが役に立つと考えています。大企業にも、そして私たち自身にも当てはまる問いです。
1. 「サステナブルです」で終わっていないか?
何が、どの範囲で、どうサステナブルなのか。具体的に書かれているかどうか。
2. そのコストを、誰が払っているか?
環境に良い取り組みのコストが、一番立場の弱い人、多くの場合は農家に寄っていないか。
3. 難しさも話しているか?
本気で取り組んでいるブランドほど、「すべて完璧です」とは言いません。課題を語れるかどうかは、誠実さのひとつの目安です。
結局、サステナブルとは何か。一言で言えば、私たちは 「関わっている全員が、来年もそれを続けられること」 だと考えています。農家が来年もコーヒーを作りたいと思えること。土地が来年も実をつけられること。お店がその価格で買い続けられること。飲む人がその価値を感じ続けられること。どこか一つでも無理をしていたら、それはサステナブルとは言えません。
2050 coffeeが目指すもの
2050 coffeeは、「2050年にもコーヒーを楽しめる未来」をつくるためのブランドです。私たちは、コーヒーの未来をつくるイノベーションを、種・品種・栽培・精製・産地という5つの領域で見ています。
1. 「言葉」ではなく「取り組み」でコーヒーを選ぶ
たとえば「栽培」の領域では、ブラジルのFAF(Fazenda Ambiental Fortaleza)のように、20年以上前から合成農薬をやめ、在来の木を植えて農園を森に戻してきた生産者がいます。ラベルの言葉ではなく、現場で何が起きているかでコーヒーを選んでいきます。
2. 一杯の背景を、難しさも含めて伝える
その取り組みにどんな意味があるのか、どこに課題があるのか。良い話だけではなく、正直に伝えることを大事にしています。
3. 新しいコーヒーへの入口を広げる
どれだけ良い取り組みも、飲む人がいなければ続きません。2050 coffeeのタップは、こうしたコーヒーを気軽に試せる入口です。テクノロジーで生まれた時間は、一杯の話をする時間に使います。
「サステナブルです」と言うことより、何をもってそう言っているのかを説明できること。これからのコーヒーには、それが問われていると思います。
Build the future of coffee, together.
この記事の内容は、YouTube「Future of Coffee」でも動画で詳しく話しています。
SOURCES
- World Commission on Environment and Development (1987) Our Common Future
- National Consumers League v. Starbucks(2024年提訴)報道:NBC News https://www.nbcnews.com/news/us-news/starbucks-sued-allegedly-using-coffee-farms-rights-abuses-touting-ethi-rcna130393
- Starbucks, C.A.F.E. Practices / Ethical Sourcing https://www.starbucks.com/responsibility/sourcing/coffee
- Daily Coffee News「Citing Quality, Nespresso Discontinues Compostable Capsules」(2026年10月8日) https://dailycoffeenews.com/2026/10/08/citing-quality-nespresso-discontinues-compostable-capsules/
- Packaging Europe「Why is Nestlé discontinuing its paper-based Nespresso capsules?」(2026年) https://www.packagingeurope.com/why-is-nestle-discontinuing-its-paper-based-nespresso-capsules/
- swissinfo.ch「Nespresso is phasing out its compostable paper capsules」(2026年9月) https://www.swissinfo.ch/eng/agribusiness/nespresso-is-phasing-out-its-compostable-paper-capsules/92142073
- Daily Coffee News「JDE Peet's Unveils Nature Transition Plan Tied to Coffee Sourcing」(2026年1月29日) https://dailycoffeenews.com/2026/01/29/jde-peets-unveils-nature-transition-plan-tied-to-coffee-sourcing/
- Nestlé / Nescafé Plan 2030 https://www.nestle.com/
- Nestlé のカーボンニュートラル表示撤回に関する報道(2023年)
- Fazenda Ambiental Fortaleza(FAF) https://2050.coffee/pages/origin
- Future of Coffee「大企業の『サステナブル』は本当か?スタバ・ネスプレッソ・ネスレの裏側」(YouTube, 2026年10月31日)


