By OtsukiYozo

生産国が焙煎する時代へ。コーヒーの価値は、どこに残るのか

「作る国」から「焙煎し、飲み、売る国」へ。産地で始まっている変化は、生産国にとっての希望であり、私たち消費国にとっての問いでもあります。

コーヒーは、長いあいだ同じ流れで世界を巡ってきました。

生産国で育てられ、収穫され、精製される。生豆のまま輸出され、消費国で焙煎される。そしてブランドとして、カフェや小売店で売られる。

私たちが毎日飲んでいる一杯の多くも、この流れの中にあります。

けれどいま、その流れが少しずつ変わり始めています。生産国の側が、自分たちで焙煎し、パッケージをつくり、カフェを開き、自国のブランドとして売る。さらに、焙煎したコーヒーを直接海外へ届ける。そんな動きが、さまざまな産地で広がっています。

これは単なる「産地焙煎」や「オリジンロースト」という手法の話ではありません。

コーヒーの価値は、どこで生まれ、誰に残るのか。

先に結論を言えば、この変化は生産国にとって、とても健全でポジティブなものです。一方で、日本のような消費国にとっては、「良いコーヒーがこれまで通り自然に届く」という前提が、少しずつ揺らいでいく変化でもあります。

これまで、コーヒーの価値は産地の外で生まれてきた

コーヒーは農園でつくられます。栽培、収穫、精製。一番手間がかかり、天候のリスクを負うのも生産国です。

けれど、最終的に価値が大きく乗るのは、多くの場合その後の工程です。焙煎、ブランドづくり、小売、そしてカフェ。International Trade Centreの「Coffee Exporter's Guide」などでは、生産者が受け取るのは最終小売価格の約10%程度だとされることもあります。

もちろん、消費国の側にもコストはあります。焙煎機、人件費、家賃、物流、マーケティング、店舗運営。「消費国だけが儲けている」という単純な話ではありません。

ただ、構造として見れば、一番大きく価値が付加される工程が、ずっと生産国の外にあったことは確かです。

産地で焙煎すると、何が変わるのか

生産国が焙煎やカフェまでを持つようになると、少なくとも3つのことが変わります。

価値が、現地に残る。
焙煎し、ブランドとして売ることで、これまで産地の外で生まれていた付加価値が、生産国の中に残るようになります。

仕事が、現地に生まれる。
焙煎士、品質管理、パッケージデザイン、バリスタ、マーケティング、輸出実務、EC運営。農業以外の仕事が生まれ、その国の中にコーヒー産業そのものが厚くなっていきます。

自分たちのコーヒーを、自分たちで飲める。
これまで生産国では、品質の高いコーヒーほど海外へ出ていく構造がありました。エチオピアでは、スペシャルティグレードの豆は輸出用に、それ以外は国内用に振り分けられてきました。コロンビアの農園を訪ねると、出てくるのはインスタントコーヒーだった、という話も珍しくありません。

自分たちの土地で育てた一番良いコーヒーを、自分たちで焙煎して飲む。それが当たり前になっていくことは、本来とても自然なことのはずです。

コロンビア:「コロンビアも、最高のコーヒーを飲むべきだ」

この変化をわかりやすく体現しているのが、コロンビアのAzahar Coffeeです。

ボゴタのAzahar Coffeeのカフェ

ボゴタにあるAzahar Coffeeのカフェ(Photo: Azahar Coffee)

Azaharは、コロンビア各地の生産者から直接コーヒーを買い付けるエクスポーターです。Stumptown Coffee RoastersやBlue Bottle Coffeeなど、海外の名だたるロースターにも生豆を届けてきました。

一方でAzaharは、キンディオ県に自社のロースタリーを持ち、ボゴタでカフェも運営しています。公式サイトには、こんな言葉があります。

Colombia has always exported its best coffee. … Because Colombia deserves to drink its best coffee, too.

(コロンビアは長く、最高のコーヒーを海外へ輸出してきた。でも、コロンビアの人たちも、自国の最高のコーヒーを飲むべきだ)

Azaharは、500以上の小規模生産者と関わり、地域の相場より50〜70%高い固定プレミアム価格で買い付けていると紹介されています。

生産者とつながり、輸出し、自国で焙煎し、カフェで届ける。産地の側が「原料の供給者」にとどまらず、品質の編集者であり、ブランドであり、売り手にもなっているのです。

ケニア:ヨーロッパの店頭に並ぶ「産地焙煎」

産地焙煎は、小さな理想論ではありません。すでに大きなビジネスとして動いています。

ケニアのAfrican Coffee Roastersは、デンマークの生協Coop Denmarkによって設立された焙煎・包装工場です。年間の焙煎能力は約2,200トン。60kgの袋に換算すると約3.7万袋、コンテナにして100本を超える規模です。

豆、粉、カプセルまでをケニアで製造し、小売店のプライベートブランドとして、ヨーロッパの2,000以上の店舗に供給しているとされています。オランダの開発機関CBIによれば、デンマークが生産国から輸入する焙煎済みコーヒーの99.5%がケニア由来で、その多くを同社が担っているといいます。

ケニアの首都ナイロビでは、2009年から焙煎を続けるSpring Valley Coffeeが市内に店舗を広げ、2025年にはロンドンに初の海外カフェを開きました。公式サイトには「産地で焙煎することで、コーヒーの価値をより多くケニアに残せる」と書かれています。

ロンドンのロースターがケニアの豆を扱うのではなく、ケニアのブランドがロンドンへ向かう。これまでとは逆向きの流れです。

エチオピア:エクスポーターが、カフェを開く

エチオピアを訪れたとき、私たちはMoplacoを訪ねました。1970年代から続く、エチオピアを代表するエクスポーターのひとつで、私たちも取引をしてきた相手です。

Moplacoは生豆を輸出するだけではなく、首都アディスアベバでGalani Coffeeというカフェも運営しています。自分たちが育て、精製し、輸出してきたコーヒーを、自分たちで焙煎し、自分たちの街で伝えている。

アディスアベバのGalani Coffeeのカウンター

アディスアベバのGalani Coffee

その光景を見たとき、とても自然な流れだと感じました。むしろ、なぜこれまでそれが当たり前ではなかったのか。そう問われている気がしました。

国が「飲む文化」をつくり始めている

変化を後押ししているのは、企業だけではありません。

ケニアでは、国内の公立大学にコーヒーショップをつくる計画が報じられています。ケニア農業食品庁の資料によれば、国内消費量は2021/22年度の1,722トンから、2022/23年度には2,051トンへと約19%増えました。

ウガンダでも、ウガンダコーヒー開発庁(UCDA)が国内消費を広げる取り組みの一環として、各地の大学にエスプレッソマシンやグラインダーを寄贈しています。

若い世代が、自分たちの国のコーヒーを日常的に飲むようになる。生産国が「作る国」から「飲む国」へ変わるための、入口づくりが始まっています。

消費国にとっては、何が変わるのか

生産国にとって、これは希望のある変化です。では、日本のような消費国にとってはどうでしょうか。

生産国の中で良いコーヒーが飲まれ、高く売れるようになれば、わざわざ手間のかかる輸出を選ぶ理由は、これまでより少なくなるかもしれません。国内で足りないお米を、わざわざ海外へ出さないのと同じように。

さらに、中国や中東などコーヒーの需要が伸びる国々との競争、そして円安。日本が良いコーヒーを「これまで通り」買い続けられる前提は、少しずつ変わっていきます。

これからは、買う側が選ぶだけではなく、売る側が相手を選ぶ時代になるのかもしれません。

なぜ、このロースターに売るのか。
なぜ、この国に届けるのか。
自分たちのコーヒーの価値を、ちゃんと伝えてくれる相手なのか。

それでも、消費国のブランドにできること

だからといって、消費国のロースターやカフェが不要になるわけではありません。

AzaharやGalaniの名前を、日本の多くの人がまだ知らないように、世界の飲み手との接点を持つブランドは、いまも消費国の側に多くあります。

産地の価値を翻訳し、なぜこのコーヒーを飲むのかを届けること。長く買い続け、産地のブランドそのものを紹介すること。価値を自分たちだけで取り切るのではなく、どう共有するかを考えること。

消費国のブランドの役割は、これからそこへ移っていくのだと思います。

2050 coffeeが考える、価値の「残し方」

2050 coffeeは、この変化を「良い豆が手に入らなくなる怖い未来」としてだけ見たくはありません。生産国が豊かになる未来と、消費国の私たちが良いコーヒーを楽しみ続けられる未来は、両立できるはずだと考えています。

産地と、長く関係を続ける: 良い豆を「買う」だけではなく、毎年同じ生産者と向き合い、関係そのものを積み重ねていきます。

産地の価値を、翻訳して届ける: 産地、生産者、精製方法、そしてその土地で起きている変化まで。一杯の背景を伝えることを、店頭での大切な仕事だと考えています。

現地で価値が生まれる流れを、一緒につくる: インドネシアや東南アジアなど、私たちが関わる国々で、現地で焙煎され、現地で飲まれ、現地に価値が残っていく。その流れを一緒につくれる可能性も探っていきたいと考えています。

コーヒーの未来は、良い豆をどこで見つけるか、誰が一番おいしく焙煎するか、という話だけではなくなっていきます。

その価値を、どこに残すのか。
生産国に、どれだけの価値が残るのか。
消費国の私たちは、その価値をどう伝え、どう分かち合うのか。

生産国が焙煎し、飲み、売る国になっていくこと。それは消費国にとって少し緊張感のある変化かもしれません。けれど本質的には、コーヒーがより健全なかたちに近づいていく、希望のある未来です。

Build the future of coffee, together.

(このテーマは、YouTube「コーヒーの未来とビジネス / FUTURE OF COFFEE」でも詳しく話しています。→ https://youtu.be/NZPwkrlD5vY )

SOURCES & FURTHER READING