この記事で紹介すること
- スウェーデンで行われた「AI店長」の実験
- ソフトウェアとハードウェアの両面で進む、カフェの自動化
- 2050 coffeeが自動化を通して増やしたい、人と人とのコミュニケーション
AIは、カフェの仕事をどこまで変えるのでしょうか。
文章作成や情報整理、売上分析、需要予測など、ソフトウェア上の仕事では、すでにAIが身近な道具になりつつあります。では、AIがコーヒーマシンや店舗設備とつながったとき、現場はどう変わるのでしょうか。
この記事では、スウェーデンの実験や大手企業の取り組みを手がかりに、カフェにおけるAIと自動化の可能性を考えます。あわせて、2050 coffeeがテクノロジーを取り入れる理由についても紹介します。
スウェーデンで始まった「AI店長」の実験
スウェーデン・ストックホルムでは、AI研究企業のAndon Labsが、AIエージェントに実際のカフェ運営を任せる実験を行っています。
店長を務めるのは「Mona」というAIです。人間のバリスタがコーヒーを淹れ、接客を担当する一方、Monaはスタッフの採用、シフト作成、仕入れ、在庫管理、取引先との連絡、顧客対応などを担います。
Monaは、開業に必要な許認可や仕入れ先について調べ、実際に2人のバリスタを採用しました。オープンから最初の2週間の売上は、44,000スウェーデンクローナ。日本円では、およそ70万円にあたります。
また、ある顧客から「300杯分のコーヒーを、ほかの人へ贈りたい」という提案を受け、9,000クローナ(約14万円)で300個の引換用QRコードを販売する企画も成立させました。
※日本円は、2026年9月時点の1スウェーデンクローナ=約16円で換算した目安です。為替レートにより変動します。
これは、AIが情報を整理するだけでなく、人とやり取りしながら、実際の店舗運営に関わった事例です。
AIは数字を扱えても、店舗の状況までは読めない
一方で、実験ではいくつもの問題も起きました。
Monaは、コンロのないカフェに卵を120個発注しました。ほかにも、必要のないナプキンを6,000枚、ニトリル手袋を3,000枚、缶詰のトマトを22.5キログラム購入しています。発注期限に間に合わず、割高な緊急配送を利用したり、スタッフがいない早朝に冷蔵品が届くよう手配したりしたこともありました。
AIは在庫の数字を処理できても、「この店にはコンロがない」という物理的な条件を十分には捉えられませんでした。配送時間を設定できても、その時間に商品を受け取る人が必要だという現場の事情までは、判断に反映できなかったのです。
もちろん、人間の店長も判断を誤ることはあります。だからこそ、AIの提案を誰が確認し、スタッフの働き方や食品の安全、顧客体験に関わる最終判断を誰が担うのかを、あらかじめ決めておく必要があります。
カフェの裏側では、すでにAIの活用が進んでいる
「AI店長」という言葉には新しさがありますが、その仕事の一部は、すでに多くの店舗で始まっている取り組みの延長線上にあります。
需要予測や在庫管理、メニュー開発、スタッフ教育、顧客レビューの分析など、AIは店舗の裏側に少しずつ組み込まれています。
Starbucksが試験導入した生成AIアシスタント「Green Dot Assist」は、店内のiPadから利用する、バリスタ向けの業務支援ツールです。マニュアルをめくったり、複数の資料を検索したりする代わりに、質問を入力すると会話形式で回答が返ってきます。
たとえば、季節限定ドリンクの材料を確認したいとき、その場で必要な情報を呼び出せます。2025年の発表時点では35店舗で試験運用されており、調べものにかかる時間を減らし、ドリンクづくりやお客様との会話に集中しやすくすることが狙いです。
KFC、Taco Bell、Pizza Hutなどを展開するYum! Brandsの「Byte by Yum!」は、ひとつの機能ではなく、店舗運営に必要な複数のシステムをまとめた基盤です。オンライン注文、POS、キッチンと配送の連携、メニュー、在庫、人員管理、スタッフ向けツールなどをひとつにつなぎます。
公式発表によると、世界25,000店舗以上で少なくともひとつの機能が使われ、米国では年間3億件を超えるデジタル取引を処理しています。Taco Bellでは注文から店舗内オペレーションまでを連携し、Pizza Hutでは調理と配送の時間管理に活用。KFCでは、店舗運営の改善を支えるAIコーチも展開されています。
McDonald’sもGoogle Cloudとの連携を進めています。クラウドの機能を店舗まで広げ、機器の状態を把握しやすくすることで、故障による営業への影響を減らすことが狙いです。現在は、一部店舗でAI音声注文や、より精度の高いシフト管理などの活用も試されています。
ただし、実際の店舗は、整えられたデータだけで動いているわけではありません。予想外の注文や機材トラブル、急な混雑、スタッフの体調など、数字に置き換えにくい出来事が日々起こります。AIを活用するには、こうした現場の変化を人が補いながら使う視点が欠かせません。
次の変化は、店舗設備との連携
AIとの壁打ちや情報整理は、すでに日常的なものになり始めています。私たちが次に注目しているのは、AIが抽出機器や店舗設備とつながる「ハードウェア」の変化です。
シンガポールのCrown Digitalが開発する「Ella」は、ロボットアーム、機械学習、コンピュータービジョンを組み合わせたロボットバリスタです。カップの清潔さや蓋の有無、ドリンクの量などをカメラで確認しながら、コーヒーを提供します。
すべてのカフェが無人店舗になるとは思いません。それでも、抽出、提供、清掃、機材の監視、在庫確認といった反復作業の一部を、AIとつながった機械が担う場面は増えていくでしょう。
そこで大切になるのは、「自動化できるか」だけでなく、「自動化によって生まれた時間を、何に使うのか」という問いです。
2050 coffeeが自動化で増やしたいもの
私たちが自動化したいのは、人の役割そのものではありません。抽出や在庫確認など、機械が安定して担える作業です。
そこで生まれた時間を、お客様の好みを聞くこと、コーヒーを一緒に選ぶこと、産地や生産者について伝えることに使いたい。自動化は、人との接点を減らすためではなく、接客に向き合う余白をつくるための手段だと考えています。
2050 coffeeが自動化を取り入れる理由
2050 coffeeでは、タップコーヒーや全自動のエスプレッソマシンなど、さまざまなテクノロジーを取り入れています。
タップコーヒーは、カップを置いてから約10秒で提供できます。全自動のエスプレッソマシンは、担当するスタッフが変わっても、一定した品質のドリンクをスピーディーに提供しやすくします。
目的は、店舗から人を減らすことではありません。バリスタが抽出機器の操作だけに追われなくなれば、お客様を迎え、好みを聞き、味や産地、生産者、精製方法について伝える時間を増やせます。
機械に任せられることは機械に任せ、人は目の前のお客様に向き合う。2050 coffeeでは、そのための自動化を進めています。
自動化が進む時代に、人の役割をどう考えるか
2050 coffeeは、タップコーヒーや全自動エスプレッソマシンなど、自動化を積極的に取り入れてきました。その姿から、「人を減らすための店」や「バリスタの役割を小さくする店」と受け取られることもあります。
しかし、私たちが目指しているのは、人がいなくても成立するカフェではありません。自動化が当たり前になっていく時代を先に見据えたうえで、どこに人が必要なのか、人にしかつくれない価値は何なのかを、より深く考えていきたい。そのために、2050 coffeeとして大切にしたい視点を、ここから整理します。
まず考えたいのは、最後の判断と責任をどこに置くかということです。AIは、情報を集めたり、選択肢を提示したりすることはできます。しかし、スタッフの働き方、お客様の体験、食品の安全に関わる判断まで、そのまま任せてよいとは限りません。何をAIに任せ、どこから人が確認するのか。店舗ごとに境界を決め、実際の運用を見ながら見直していく必要があります。
自動化の成果を、速さだけで測らないことも大切です。提供時間や作業時間が短くなったとしても、それだけで良い店舗になったとは言えません。空いた時間によって、お客様の好みを聞けるようになったのか。コーヒーの背景を伝える会話が増えたのか。数字にしやすい効率と、数字にしにくい体験の両方を見る必要があります。
また、技術は実際の店舗環境に合わせて考える必要があります。機材は故障し、急に行列ができ、スタッフの経験やその日の体調も一人ひとり異なります。整ったデータの中で正しく動くだけでは、現場で役立つ仕組みにはなりません。導入後もスタッフの声を聞き、使い方を調整できることが重要だと思います。
そして、効率化によって生まれた余力を、何につなげるのか。2050 coffeeにとって、ここが最も大きな問いです。高品質なコーヒーを、より速く、手に取りやすく、さまざまな場所で提供できるようにする。その日常の一杯を、生産者との継続的な関係や産地の未来につなげるには、どんな仕組みが必要なのか。テクノロジーを導入するだけでなく、その先まで考え続けたいと思います。
テクノロジーが、人の仕事を支えるカフェへ
未来のカフェでは、AIが需要を予測し、機材の状態を確認し、発注を提案するかもしれません。抽出や清掃の一部は、機械が担うようになるでしょう。
一方で、店舗にいる人は、お客様の話を聞き、その人に合うコーヒーを提案し、背景にある土地や生産者について伝えることができます。
カフェは、飲み物を効率よく提供するだけの場所ではありません。新しい味と出会い、知らなかった産地について学び、誰かと言葉を交わす場所でもあります。
テクノロジーによって、より多くの人が良いコーヒーに出会える仕組みをつくる。そして、そこで生まれた余白を、人と人との関係に使う。
それが、2050 coffeeが考える未来のカフェです。
Build the future of coffee, together.
動画でも、このテーマを紹介しています
YouTubeチャンネル「FUTURE OF COFFEE」では、2050 coffee代表の大槻が、コーヒー業界で起きている変化や、これからのコーヒーについて発信しています。
今回の記事で取り上げたスウェーデンの「AI店長」についても、実験で見えてきた可能性と課題を動画で紹介しています。さらに詳しく知りたい方は、ぜひご覧ください。
動画「AIがカフェを経営する時代?成功と失敗から見えたコーヒーの未来」|FUTURE OF COFFEE
参考資料
- Andon Labs — Our AI started a café in Stockholm
- Andon Labs — AI bosses are kind, but sometimes dumb
- Starbucks — Green Dot Assist
- Yum! Brands — Byte by Yum!
- McDonald’s and Google Cloud partnership
- Google Cloud — Crown Digital and Ella