· By OtsukiYozo
「ラボで発酵させたコーヒー」は何が違う? 2050 coffeeがIndia Lab CMOを選ぶ理由
インドの山あいの農園と、微生物学のラボ。自然の力と技術が重なって生まれた一杯は、「コーヒーは、まだどこまで変われるのか」という問いへのひとつの答えです。
2050 coffeeのタップには、「Discovery」と名づけた特別な一杯があります。いま、そこに並んでいるのが「India Lab CMO」です。
名前を見たお客様から、よくこんな質問をいただきます。
「ラボで発酵させたって、人工的な味なんですか?」
先に結論を言えば、答えは「いいえ」です。このコーヒーに、果物や香料は加えられていません。使われているのは、コーヒーそのものの発酵から生まれた微生物の力です。ラボが担っているのは、その力を見守り、狙った状態で発酵を終えるための「管理」です。
では、なぜインドなのか。なぜラボなのか。そして、なぜ2050 coffeeはこのコーヒーを選んだのか。順番にお話しします。

インドは、実は350年の歴史を持つコーヒー産地
インドのコーヒーと聞いて、すぐに味が思い浮かぶ人は多くないかもしれません。けれど、インドは世界でも古いコーヒー産地のひとつです。
17世紀、聖者ババ・ブダンが巡礼の帰りにイエメンから7粒のコーヒーの種を持ち帰り、南インド・カルナータカ州の山に植えた。そんな伝説が残っています。その山は、いまも彼の名前をとって「ババブダンギリ」と呼ばれています。
India Lab CMOが育つチクマガルールは、まさにこの地域です。
インドのコーヒー栽培には、もうひとつ特徴があります。ほとんどの農園が、背の高い木の下でコーヒーを育てる「シェードグロウン」であること。木陰にコーヒーが育ち、その木にはコショウのつるが絡み、カルダモンなどのスパイスも一緒に育てられています。
一方で、インドで生産されるコーヒーの7割以上はロブスタ種です。アラビカ種のスペシャルティコーヒーの産地としては、まだ「これから」の場所だと言えます。
Pearl Mountain農園と、Ashok Patreさん
このコーヒーをつくっているのは、Ashok Patreさんが営むPearl Mountain農園です。現地では「Ratnagiri(ラトナギリ)」と呼ばれ、これはサンスクリット語で「真珠の山」を意味します。
1920年代から家族で続く農園で、Ashokさんが受け継いだのは1989年。それから20年以上、つくっていたのはウォッシュトのコーヒーだけでした。
転機は2010年頃。世界でシングルオリジンのコーヒーが注目され始めたことに気づき、2016年に初めてハニープロセスに挑戦します。そこから、選別を重ねた収穫、新しい精製設備、乾燥場への投資を進め、いまでは15種類以上の精製方法に取り組む農園になりました。
その挑戦は、世界でも評価されています。同じ農園の別のロットは、米国のコーヒー評価誌「Coffee Review」で93点を獲得し、2024年の「Top 30 Coffees」に選ばれました。
Lab CMOとは? 「Cultured Mosto」という発酵
India Lab CMOの「CMO」は、「Cultured Mosto(カルチャード・モスト)」の略です。
モストとは、コーヒーチェリーが発酵するときに生まれる液体のこと。そこには、風味を生み出す酵母や細菌が豊富に含まれています。
この農園では、風味を生み出す力に優れた微生物を含むモストを選び、最適な状態で保管しておきます。そして、完熟したチェリーを色で選別し、そのモストとともに「バイオリアクター」と呼ばれる発酵タンクで発酵させます。
ポイントは、発酵を「時間」ではなく「状態」で管理していることです。
一般的な発酵では、「48時間」「72時間」のように時間で区切ることが多くあります。けれどLab CMOでは、温度を管理しながら、微生物の働きをラボで継続的にモニタリングし、発酵の進み具合を見て終わらせるタイミングを決めています。
農園には自前の微生物学ラボがあり、専門の研究者が発酵を見守っていると紹介されています。
だからこそ、毎回安定して、狙った味わいにたどり着くことができる。名前の「Lab」には、そんな意味が込められています。
「人工的な味」ではないのか?
最近は、果物やフレーバーを加えて発酵させる「インフューズド」と呼ばれるコーヒーも登場し、議論になっています。
India Lab CMOは、それとは違います。加えているのは、コーヒー自身の発酵から生まれたモストだけです。どの微生物を、どんな状態で働かせるかを、科学の力で丁寧に見守っている。いわば、発酵という自然のプロセスを、より深く理解しようとする試みです。
もちろん、微生物を使った発酵がいつも優れた結果を生むとは限らず、研究者のあいだでも評価はさまざまです。ただ、その土地の発酵から生まれた微生物を使うことは、産地らしさ(テロワール)を活かしながら品質を高めるひとつの方法だと考えられています。
なぜ、2050 coffeeはこのコーヒーを選んだのか
2050 coffeeでは、コーヒーを「Standard」「Select」「Discovery」の3つに分けています。生産者ではなく、そのコーヒーが果たす役割で分けた考え方です。
その中でDiscoveryを、私たちはこう定義しています。
Exploring what coffee can become.
珍しい産地、実験的な精製、革新的な栽培。コーヒーを前に進める生産者とアイデアを紹介するコーヒー。
India Lab CMOは、このDiscoveryにふさわしい理由を、少なくとも3つ持っています。
新しい産地の可能性を、日常に届ける。
2050年に向けて、気候変動によってコーヒーの産地地図は変わっていくと考えられています。これまで「定番」ではなかった産地の挑戦に光を当て、需要をつくることは、コーヒーの未来の選択肢を増やすことにつながります。
技術で、再現性を高める。
発酵を勘や時間だけに頼らず、データとラボの知見で管理する。2050 coffeeがタップや全自動エスプレッソマシンで一杯の品質を安定させているのと同じように、この農園は精製の段階でそれを実践しています。テクノロジーは、自然を置き換えるものではなく、自然の力を最大限に引き出すためのものです。
「高い」ではなく、「挑戦の背景がある一杯」として。
Discoveryの一杯は、Standardより少し価格が上がります。けれど私たちは、それを単に「高いコーヒー」として売りたくはありません。新しい産地、新しい精製に挑む生産者の背景ごと味わってもらい、その挑戦に需要をつくること。それが、Discoveryというカテゴリーの役割です。
一杯の中で、何が起きているのか
India Lab CMOのフレーバーは、発酵した葡萄、洋梨、ナッツのような香ばしさ、そしてスパイスを思わせる余韻。ジューシーで、複雑な味わいです。
コショウやカルダモンと一緒に育つ農園から届いたコーヒーに、スパイスのニュアンスを感じる。そんな想像をしながら飲んでみるのも、楽しみ方のひとつかもしれません。

India Lab CMO
- 生産者:Ashok Patre
- 農園:Pearl Mountain Farm
- 地域:インド・カルナータカ州チクマガルール
- 標高:1,350m
- 品種:Catuai、Catimor、Chandragiri
- 精製:Fermented Natural with Mosto
- 輸出:Kaapi & Culture
- フレーバー:発酵した葡萄、洋梨、ナッティー、スパイシー、ジューシー
2050 coffeeが目指す、コーヒーの「次の当たり前」
新しい産地と、関係を築く: 定番の産地だけでなく、インドのように可能性を広げている産地の生産者とつながり、その挑戦を紹介していきます。
一杯の背景を伝える: 精製方法や微生物の働きのように、少し難しく聞こえる話も、店頭でわかりやすく伝えることを大切にしています。
良いコーヒーへの入口を広げる: Standardの日常の一杯から、Discoveryの挑戦的な一杯まで。初めての人でも選びやすい形で、コーヒーの未来に触れられる入口をつくります。
コーヒーの未来をつくるのは、希少な品種や有名な産地だけではありません。自然の力を理解し、技術によって再現性を高め、まだ見ぬ味わいの可能性を広げていくこと。
India Lab CMOは、インドの農園とラボの知見が重なって生まれた、まさに「Discovery」と呼ぶにふさわしい一杯です。
Build the future of coffee, together.
SOURCES & FURTHER READING
- Cafe Imports, "Ratnagiri Estate: A New Era of Coffee from India"
- Coffee Review, "India Pearl Mountain Estate" (Mostra Coffee)
- Kaveri Coffee, "Ratnagiri Estate"
- USDA FAS, "India: Coffee Annual" (2026)
- Wikipedia, "Baba Budan"
- Roast Magazine, "Additive Fermentation and Infused Coffee"
- Sci (MDPI), review on coffee fermentation