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エルニーニョで、コーヒーはどう変わる? 海と産地と価格のつながり

エルニーニョで、コーヒーはどう変わる? 海と産地と価格のつながり

「エルニーニョ」という言葉を、天気予報で聞いたことがある人は多いと思います。

けれど、それが何を意味し、なぜ遠く離れたコーヒー産地や、日本で飲む一杯の値段にまで関係するのかは、意外と知られていません。

エルニーニョは、太平洋の海面水温の変化をきっかけに、世界各地の風や雨の流れが変わる現象です。コーヒーにとって重要なのは、単に気温が上がることではありません。雨が降る場所とタイミングがずれ、開花、実の成長、収穫、乾燥に影響することです。

そして2026年は、この関係をいつも以上に注意して見る必要があります。

2026年9月、世界気象機関(WMO)は、エルニーニョがすでに発生し、年末にかけて「非常に強い」規模へ発達する見通しを発表しました。米国海洋大気庁(NOAA)も、2026年秋から冬に非常に強いイベントとなる確率を90%超としています。市場やメディアでは、この規模のイベントを「スーパー・エルニーニョ」と呼ぶことがあります。ただし、これは正式な国際分類ではなく、非常に強いイベントを表す通称です。

強いエルニーニョだから、世界中のコーヒーが一斉に不作になるわけではありません。雨が足りなくなる地域もあれば、多すぎる雨に悩む地域もあります。同じ国でも、標高、土壌、品種、そして開花や収穫のどの時期に異常気象が重なるかで、結果は変わります。

それでも、ひとつだけ確かなことがあります。気候が不安定になるほど、コーヒーをつくる人が負うリスクは大きくなるということです。

太平洋の海面水温の変化が、風と雨、コーヒーの花と実、供給予想と価格へ伝わる流れを示した図

太平洋の海面水温の偏りは、風と雨の分布を変え、産地の花や実、そして収穫前の市場予想へ伝わります。ただし、影響は地域と時期によって異なります。2050 coffee作成。WMO・NOAAの解説をもとに構成。

まず知りたい、エルニーニョの仕組み

エルニーニョは、赤道付近の中部から東部太平洋で海面水温が平年より高くなり、風や気圧、雨の降り方が連動して変わる自然現象です。通常は2〜7年おきに発生し、9〜12か月ほど続きます。

海の一部が温まるだけで、なぜ遠く離れた農園が影響を受けるのでしょうか。

大気と海は、別々には動いていません。太平洋上の熱の分布が変わると、雲が生まれる場所や大規模な風の流れも変わります。その結果、インドネシアでは雨が少なくなりやすい一方、別の地域では豪雨が増えるなど、世界各地の季節的な気候に偏りが生まれます。

エルニーニョは、特定の日の天気を当てる予報ではなく、季節のあいだに「どこで雨が増え、どこで乾燥しやすくなるか」という傾向を変える現象です。WMOも、イベントの強さが、そのまま各地域の影響の大きさになるわけではないと注意を促しています。

なぜ、コーヒーに関係するのか

コーヒーの木は、雨の「量」だけでなく、「タイミング」に大きく左右されます。

コーヒーの木で成熟する赤いコーヒーチェリー

気候の変化は、開花から実の成長、収穫まで、コーヒーの生育サイクル全体に影響します。

乾季のあとに降る雨は、花を一斉に咲かせる合図になります。開花期に雨が足りなければ花が十分に開かず、実の数が減る可能性があります。一方、収穫期の強い雨は、完熟した実を落としたり、乾燥工程を遅らせたりします。高温と乾燥が続けば、木は水分ストレスを受け、実の成長や翌年の収量にも影響が残ります。

いつ降るのか。どれほど続くのか。暑さと同時に起きるのか。

多年生作物であるコーヒーは、ひとつの異常気象の影響が、その年だけで終わらないこともあります。強い乾燥で木そのものが弱れば、回復には複数年かかります。枯れて植え替えが必要になれば、新しい木が十分な実をつけるまで、生産者は収入を待たなければなりません。

今年はなぜ、特に注目されているのか

今回のエルニーニョは、年末にかけて「非常に強い」規模へ発達すると予測されています。強まる時期は、ブラジルでは次の収穫を左右する開花や初期の結実、東南アジアでは雨季のサイクルと重なります。産地にとって重要な時期に、雨の偏りが起こる可能性があるのです。

「スーパー・エルニーニョ」という呼び方は、被害が必ず大きくなることを意味しません。現地への影響は、地域や標高、その年の生育段階によって変わります。だからこそ、ひとつの大きな言葉だけで判断せず、産地ごとに何が起きているかを見る必要があります。

産地ごとに、起きることは違う

ベトナムとインドネシア:ロブスタを襲う乾燥リスク

エルニーニョ時の東南アジアでは、高温と少雨が起きやすくなります。世界のロブスタ供給を支えるベトナムとインドネシアにとって、水不足は大きなリスクです。

ベトナムでは2015〜16年のエルニーニョに伴う深刻な干ばつで、中部高原のコーヒー農園が水不足に直面しました。米国農務省の2026年レポートも、エルニーニョが東南アジアの一部に高温・乾燥をもたらし、コーヒーの生産性を下げる可能性を挙げています。

インドネシアでも、2023年のエルニーニョに伴う干ばつが南スマトラの収穫を遅らせました。一方で、雨が多すぎても開花や実の成熟、乾燥工程に問題が出ます。少なすぎる雨と多すぎる雨。その両方が、コーヒーにはリスクになります。

ロブスタの供給が細れば、影響はインスタントコーヒーや業務用ブレンドだけにとどまりません。ロブスタからアラビカへ需要が移れば、市場全体の価格を押し上げる可能性があるからです。

ブラジル:同じエルニーニョでも、答えはひとつではない

世界最大のコーヒー生産国ブラジルでは、影響はさらに複雑です。

地域によって雨の増減が異なり、乾燥が収穫を助ける場合もあれば、その後の開花や幼果の成長を妨げる場合もあります。国際コーヒー機関(ICO)も、ブラジルへの影響は地域、強さ、作物サイクルの時期によってプラスにもマイナスにもなりうると指摘しています。

2026年のエルニーニョが強まる時期は、ブラジルの次の収穫を左右する開花と初期の結実期に重なります。そのため市場が警戒しているのは、今収穫している豆だけではありません。まだ木の上にも現れていない、次のシーズンの供給です。

エチオピアなど東アフリカ:国名だけでは語れない

東アフリカでは、同じ国の中でも被害が大きく異なる可能性があります。

Global Coffee Reportの取材で、コーヒー研究者のアーロン・デイヴィス博士は、過去のエルニーニョ期のエチオピアで、問題なく生産できた地域がある一方、何百年もコーヒーを育ててきた土地で木が枯死した例を紹介しています。その地域は干ばつのあとに洪水にも見舞われたといいます。

「エチオピア産」「ブラジル産」という大きな括りだけでは、気候リスクを説明できません。農園単位、谷単位で条件を見る必要があります。

値上がりは、収穫が減る前から始まる

コーヒー価格は、今年採れた豆の量だけで決まりません。将来の供給が足りなくなると市場が予想すれば、実際の被害が確定する前から先物価格は動きます。

2026年5月、ICOはエルニーニョ発生への懸念が月後半の価格をわずかに支えたと報告しました。9月時点ではイベントが実際に発生し、さらに強まっています。これから産地で降る雨、あるいは降らない雨によって、相場は大きく揺れる可能性があります。

コーヒー価格が上がることと、生産者の暮らしが良くなることは同じではありません。

収穫量が減れば、単価が上がっても売れる豆そのものが少なくなります。灌漑(かんがい)、貯水設備、シェードツリー、土壌改良、植え替えには費用がかかります。品質を守るために選別や乾燥の手間が増えることもあります。相場が上がったとき、その上昇分が農園に届くとも限りません。

私たちが見るべきなのは、一ポンドあたりの市場価格だけではなく、一ヘクタールから何キロ収穫でき、そのために生産者がいくら負担したのかという現実です。

エルニーニョと「2050年問題」は同じではない

エルニーニョは、数年おきに起きる自然な気候変動です。一方、「コーヒーの2050年問題」が扱うのは、人為的な地球温暖化によって、栽培に適した気候が長期的に変わっていく問題です。

この二つは同じではありません。けれど、重なります。

すでに平均気温が上がり、乾燥や極端な高温のリスクが増しているところへ、強いエルニーニョが加われば、農園が受けるストレスは大きくなります。かつては数年に一度の悪条件を耐えればよかった地域でも、回復する前に次のショックが来れば、同じ栽培を続けることが難しくなります。

2023年のPLOS Climateの研究では、世界の主要12産地すべてで、気候災害と複合的なイベントが1980〜2020年の間に増加しました。危険度の高い6年のうち5年は2010年以降に集中し、ENSOは年ごとの複合リスクを説明する主要な要因とされています。

エルニーニョは、2050年に向かう変化の原因そのものではありません。むしろ、温暖化した世界でコーヒー産業の弱点がどこにあるかを、一気に映し出すストレステストに近いものです。

守るべきものは、「豆の量」だけではない

対策はあります。

木陰をつくるシェードツリーは農園の温度上昇を和らげ、土壌から水分が失われるのを抑えます。土壌を覆い、有機物を増やせば保水力を高められます。雨水の貯留や効率的な灌漑(かんがい)、暑さや乾燥、病害に強い品種の育成も重要です。地域によっては、アラビカやロブスタ以外のコーヒー種を試す動きも始まっています。

ただし、万能な方法はありません。そして、どの対策にも資金と時間が必要です。

だから適応を、生産者だけの責任にしてはいけません。長期的な買付関係、透明性のある価格、設備や品種更新への投資があってはじめて、農園は「次の不作を生き延びる」だけでなく、10年後、20年後の品質をつくることができます。

海の変化を、今日の一杯から考える

今回の強いエルニーニョが、2027年の収穫と価格をどこまで変えるか。現時点で、正確に予言できる人はいません。

けれど、わからないから何もしなくてよいわけではありません。

産地を知ること。価格だけでなく、生産者の収量とコストを見ること。気候に強い農園づくりを、継続的な取引で支えること。そして、安さだけでは測れない一杯の価値を、飲む側も理解すること。

だから、2050 coffeeがしていること

2050 coffeeは、気候リスクそのものをなくすことはできません。けれど、一杯がどこから来て、誰がつくり、どのような価値を持つのかを見える形にし、その価値が生産者へ届く選択を積み重ねることはできます。

  • サステナブルでトレーサブルなコーヒーを選ぶ。価格や味だけでなく、その先にある生産環境とつくり手を含めて考えます。
  • 産地の背景を、飲む人へ伝える。国名だけでなく、生産者、品種、精製方法、そこで起きている変化まで、一杯の物語として届けます。
  • より良いコーヒーを、日常の選択肢にする。タップコーヒーや安定した抽出の仕組みも活用し、スペシャルティコーヒーをもっと気軽に楽しめる形にします。

2050 coffee Shirakawa。タップコーヒーを通じて、より良いコーヒーを日常の選択肢へ。

遠い太平洋で始まった変化は、やがて農園の花や実に現れ、流通を通り、私たちのカップへ届きます。だからこそ、未来のコーヒーは、今日どの一杯を選び、どのように届けるかの積み重ねでつくられます。

未来の話を、今日の一杯へ。

2050年にも、コーヒーを楽しめる未来をつくるために。

Sources & further reading


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