· By OtsukiYozo
コーヒーは2050年に半分になる? 最新研究で読み解く「2050年問題」
「栽培適地が半分になる」という予測の原点をたどると、見えてきたのは終末予言ではなく、すでに始まっている産地の移動でした。
2050 coffeeという名前は、「コーヒーの2050年問題」から生まれました。けれど、その言葉をあらためて調べると、私たち自身も知らなかった原点と、少し違って伝わってきた事実がありました。
「2050年までに、コーヒーを栽培できる土地が半分になる」。日本では、この予測が「コーヒーの2050年問題」という名前で知られています。
その数字が広く伝わるようになってから、すでに約10年が経ちました。予測は外れたのでしょうか。問題はさらに深刻になったのでしょうか。そして、そもそも「半分になる」とは、何が半分になることなのでしょうか。
先に結論を言えば、2050年問題は過去のものになっていません。一方で、「2050年に生産量が半分になる」「コーヒーが飲めなくなる」という単純な話でもありません。
「適地半減」の原点は、WCRだけではなかった
代表的な根拠のひとつは、2014年にオンライン公開され、2015年に学術誌へ掲載された論文「A Bitter Cup」です。アラビカ種とロブスタ種を対象に、現在と2050年代の気候条件を比較し、複数の排出シナリオで世界の潜在的なコーヒー栽培適地が約50%減少する可能性を示しました。
同じ2015年、World Coffee Research(WCR)が関わった別の研究も、アラビカ種の栽培適地が2050年代までに半減するという結果を発表しました。WCRは研究の要点を業界へ伝え、その後の「適地半減」という理解を広げる大きな役割を果たしました。
「50%減」は、生産量が半分になるという予測ではありません。気候モデル上の「栽培に適した土地」が減るという推計です。
研究が示しているのは「生産量の半減」ではなく、「栽培に適した土地の減少」です。
灌漑(かんがい)、遮陰、土壌管理、品種改良によって、気候的には不利な土地でも生産を続けられる場合があります。反対に、気候上は適地でも、森林、傾斜、道路、土地所有、労働力などの条件によって農園にできない場合もあります。
「適地半減」は未来を正確に言い当てる数字というより、現在の栽培方法と品種を前提にしたとき、産地の地理がどれほど大きく変わりうるかを示す警告でした。
この変化を地域ごとに見たのが、次の地図です。中程度の排出シナリオ(RCP 4.5)を前提に、2000年と2050年を比べて、アラビカ種の栽培適性が各地域で何段階変わるかを示しています。生産量の増減を示した図ではありません。

- 0:適性区分に変化なし
- +1〜+3(緑):適性が1〜3段階上昇
- −1〜−3(オレンジ〜赤):適性が1〜3段階低下
適性区分は「高度適地(S1)」「中程度の適地(S2)」「限界的な適地(S3)」「不適地(N)」の4段階です。そのため、変化は−3から+3までになります。たとえば−2は、S1からS3のように2段階低下することを意味し、−3はS1から不適地まで低下するケースです。
地図では、現在の主要産地の多くが薄いオレンジ、つまり−1の低下として表れています。濃い赤の−2、−3はより大きな悪化を示します。緑は適性が上がる地域ですが、実際に農園を移せるかどうかは、森林、土地利用、道路、労働力など別の条件にも左右されます。
A:中南米、B:西・中央アフリカ、C:南・東南アジア。Source: Grüter et al. (2022), PLOS ONE, Fig. 5. CC BY 4.0.
日本で広がった「コーヒーの2050年問題」
“Coffee 2050 Problem”は、英語圏で一般化した学術用語ではありません。WCRや研究論文では、主に “Climate Change and Coffee” や “Land Suitable for Coffee by 2050” といった表現が使われています。
ただし、2050年という年そのものが日本独自というわけではありません。海外の気候モデルや農業適地の研究でも、将来予測を比較するひとつの基準年として、2050年前後が繰り返し使われています。
日本では、日経をはじめとするメディアや関連書籍が、この問題の認知を広げたという見方があります。「2050年」と「半減」という組み合わせは、複雑な研究結果をひと目で伝えられる、とても分かりやすい表現です。
その一方で、「2050年問題」という言葉だけが先行し、「2050年にコーヒーの生産量が半分になる」「その年を境にコーヒーが飲めなくなる」と受け取られやすくなったことも否めません。日本独自なのは問題そのものではなく、複数の研究が示す変化を「コーヒーの2050年問題」というひとつの言葉にまとめた伝え方だと考えられます。
2022年のアップデート:「高度適地」は50%以上減少
2022年のPLOS ONEの研究は、14の気候モデルに加えて土壌、傾斜、保護区などの条件も取り入れ、2050年のアラビカ栽培適性を分析しました。その結果、最も適性の高い土地は、低排出から高排出までのすべてのシナリオで50%以上減少し、中程度の適地も31〜41%減少すると推計されました。
同年のNature Foodの研究は、気温と降水量だけでなく、空気の乾燥度が一定の閾値を超えると、アラビカの収量が急速に低下する可能性を示しました。平均気温だけでは捉えきれない、暑さと乾燥の複合リスクです。
2014年から2022年へ、警告は弱まっていない
2014/15年の「約50%」は、アラビカとロブスタを合わせた世界全体の潜在的な気候適地を見た数字です。一方、2022年の「50%超」は、アラビカにとって最も条件の良い「高度適地」を見た数字です。
対象や分析方法は異なりますが、どちらの研究も共通して、現在と同じ品種や栽培方法を前提にすれば、2050年に向けて条件の良い土地が大きく減ると示しています。
2026年の最新研究:現在の収穫地の20%が「不適地」へ
2026年、RaboResearchは、現在のアラビカ収穫地に焦点を当てた分析を公表しました。現在の栽培地域のうち、すでに8%が気候的な「不適地」に分類され、2050年には20%に上昇する可能性があるとしています。
「50%」から「20%」へ、問題が小さくなったようにも見えます。しかし、初期研究は世界全体の潜在適地を分析し、新しい推計は現在実際に収穫されている土地に絞っています。さらに、不適地に至る前にも、「高度適地」から「限界的な土地」への劣化があります。
国ごとに異なる、2050年の見通し
- ブラジル:現在81% → 2050年62%
- コロンビア:現在56% → 2050年45%
- ホンジュラス:現在53% → 2050年12%
- エチオピア:現在39% → 2050年50%
Source: RaboResearch, 2026
問われているのは、コーヒーが「なくなるか」ではない
エチオピアのように、より標高の高い地域へ適地が広がる可能性もあります。ただし、地図上で新しく色がついた場所へ、そのまま農園を移せるわけではありません。そこには森林、保護区、別の農作物、土地所有、道路や精製設備、そして人々の暮らしがあります。
コーヒーは単なる農産物でもありません。土地、標高、気温、降雨が、産地固有の味をつくります。栽培場所が変われば、私たちが「その産地らしさ」と呼んできたフレーバーも変わる可能性があります。
- どの産地が残り、どの産地が移動を迫られるのでしょうか。
- どの品種と味が受け継がれ、何が失われるのでしょうか。
- その適応コストを、誰が負担するのでしょうか。
産地ですでに始まっている適応
対応はすでに始まっています。WCRのInnovea Global Coffee Breeding Networkでは、各国が協力し、暑さ、乾燥、病害に強く、品質と収量も維持できる品種の開発を進めています。
農園では、シェードツリーで温度上昇を抑えるアグロフォレストリー、土壌の保水力を高める農法、灌漑(かんがい)、耐性品種への植え替えが試されています。ただし、どの方法もすべての土地に有効な万能策ではありません。

生産者が向き合っているのは、遠い未来ではなく、次の収穫と次の植え替えです。AI-generated editorial image for 2050 coffee.
2050 coffeeが目指す、コーヒーの「次の当たり前」
2050年は、ある日突然コーヒーが飲めなくなる期限ではありません。今日どの品種を植え、どの産地と関係を築き、研究や適応にどれだけ投資するか。その選択の結果が、はっきり現れてくる時間軸です。
Global Coffee Reportの記事が指摘するように、重要なのは2050年を待つことではなく、その前の10年に何をするかです。
2050 coffeeが目指しているのは、サステナブルで、生産地までたどることができ、生産者にも正当に還元されるコーヒーを「次の当たり前」にすることです。
- 産地との関係を続ける:サステナブルな農法に取り組む生産者と関係を築き、品質と生産の継続を支えます。
- 一杯の背景を伝える:産地、品種、精製方法、生産者のストーリーまで伝え、価格だけでは見えないコーヒーの価値を共有します。
- 良いコーヒーへの入口を広げる:タップコーヒーや全自動エスプレッソマシンを活用し、品質を安定させながら、初めての人でも選びやすい形で提供します。
テクノロジーで生まれた時間は、コーヒーの背景を伝え、お客様と話すために使います。効率化そのものが目的ではなく、生産者と飲み手の距離を近づけるための手段です。
2050年以降もコーヒーを楽しめる未来は、2050年になってからつくるものではありません。産地での一つの選択、店で伝える一つの物語、そしてお客様が選ぶ一杯。その積み重ねは、今日から始まっています。
Build the future of coffee, together.
Sources & Further Reading
- Bunn et al., “A Bitter Cup: Climate Change Profile of Global Production of Arabica and Robusta Coffee”
- Bunn et al., PLOS ONE (2015) / WCR Research Summary
- Grüter et al., PLOS ONE (2022)
- Kath et al., Nature Food (2022)
- RaboResearch (2026)
- Global Coffee Report, “Why the Next Decade Is Decisive for Coffee’s Future”
- World Coffee Research — Innovea Global Coffee Breeding Network